住宅改修の基本

日常生活の「器」である住宅は、自動車・電化製品・日用雑貨といった他の生活用品とは違って、極めて総合的で寿命の長い生活財であること、個々人の生活スタイルや考え方によって「あるべき姿」が大幅に変わること、土地に固着した一品受注生産であること、極めて高価で簡単に作り替えたり買い換えたりできないこと、等の特徴をもっています。そのため、建設や購入にあたっては、その他の生活用品以上に「事前によく考える」ことが大切になります。このことは新築や新規購入時のみならず、増改築や「改修」時においても全く同様です。以下、高齢者のための住宅改修に携わる場合の基本的な要点を整理します。

1.「変化する」ことを前提に「知恵」を出す

住宅改修の多くは、住宅の一部が「通れない」「上がれない」「入れない」「使えない」等の差し迫った「必要」に応えて行われます。その意味では「いま何が必要か?」を正確に判断することが第一の課題となります。
しかし、人々にとっての「必要」は、本人の成長発達や社会の変化に伴って必ず変化します。住宅改修の代表的手段である「手すり」一つをとっても、ある人にとって必要な箇所や位置・素材・形状は本人の加齢や身体能力の変化に伴って必ず変化します。また、「夏涼しく冬暖かく」というように、住宅に対する要求は季節によっても変化します。

[暮らしの知恵]
こうした変化に対応するために、人々は昔から様々な「暮らしの知恵」を蓄積させてきました。近年は、このような知恵に代わって新しい建築技術や電化製品等に頼りがちですが、人間らしい豊かな暮らしのためには、昔ながらの知恵を見直すことも大切なことです。
要は、「変化する生活」と「変化しにくい住宅」との間には必ず「ギャップ」が発生すると考え、「モノ」の改修のみに頼らず、高齢者本人が「自分らしい暮らし」を継続するための様々な「知恵」を創出することが大切です。

※ なお、このような「変化」に対応するための考え方としては、『住み替え方式』と『増改築方式』の2つがあります。前者は【ライフスタイルの変化に応じて適当な住宅に移動する(例えば共働き期は都心のアパート→子育て期は郊外の庭付きー戸建て→老後は再び都心アパート)】という考え方であり、後者は【持家を増改築しながらライフスタイルの変化に対応させる】という考え方です。これまでのわが国では、優良な借家が少ないことも手伝って後者の考え方が中心でしたが、借家水準の向上や「グループホーム」「コレクティブハウス」等の新しい「住まい方」の普及とともに、今後は『住み替え方式』を選択する可能性も高まるものと考えられます。

2.目的は「生活」の改善にある

住宅の改修はあくまでも一つの「手段」であり、その目的は、高齢者本人および家族の生活を豊かに再構成することにあります。そのためには、本人および家族の「生活像」と生活改善の「目標」を正しく把握することが基本となります。

人々には

  • 「一人でお風呂に入りたい」
  • 「調理をしたい」
  • 「家族そろってテレビを見たい」
  • 「昔やっていた趣味をもう一度」
  • 「新しい趣味にも挑戦したい」
  • 「友達にも会いたい」

など、『自分らしく暮らす』ための様々な欲求があります。しかし高齢者の場合、家族に遠慮をしていたり、自分自身でも「何をしたいのかはっきりしない」場合や「あきらめている」場合もあります。こうした潜在化している欲求を含めて、高齢者本人がもっている生活要求を総合的に引き出すことが大切です。

[生活像の具体化]
このような生活要求を引き出すことによって始めて、住宅改修の内容や優先順位を具体的にイメージすることができます。本人の生活像を描くことなしに「手すりさえつければ…」「段差さえ無くせば…」といった漠然とした発想では、多額の費用で改修したにもかかわらず結局は「本人の生活は何も変わらなかった」という結果に陥りがちです。

※ 「自分らしい暮らし」という場合、本人が長年の間に築き上げてきた「生活習慣」や、本人も気づいていない「癖」のようなものを大事にすることも大切なことです(居住の継続性)。

3.「出来ること」から段取りよく

住宅改修の具体的内容を考える前に、生活改善のために出来ることを多面的に考えてみること、出来ればそれを試してみることが大切です。

  • 散らかった室内を整理整頓してみる
  • 衣類や日用品の収納方法・収納場所を変えてみる
  • 家具類の配置を変えてみる
  • 既存の家具類も置き方次第で「補助具」として役立つことを試してみる
  • 簡便な福祉用具や介護用品を試してみる
  • カーテンやインテリアなどで室内の雰囲気を変えてみる
  • 居室の位置を便利で快適な場所に変えてみる

場合によっては、このような試みだけ(「改修」なし)でも差し迫った「必要」に対応できる場合もあります。

[実感をもって考える]
さらに、このような試みを行うことによって、本人や家族も「環境を少し変えることによって生活が豊かになる」ことを実感し、「ここを直せばもっと良くなるはず」というように、住宅改修の箇所や方法を自分なりに具体的に考えることが可能となるはずです。

※ 病院や施設退所時に行われる住宅改修についても、出来れば事前の「一時帰宅」によって高齢者本人が現実的な生活を体験し、必要な改修箇所や改修方法を本人を交えて具体的に検討することが望まれます。

4.専門家の連携による総合的判断を

住宅改修では、上記のように高齢者本人および家族の生活意欲を引き出し、それに応えて改修することによって生活意欲がさらに高まる…といったプラス方向の「循環」が動き出すように、「小さな改修を丁寧に積み重ねる」という発想が大切です。
言い換えれば、「困ってからの大規模改修」ではなく、「問題の早期発見(予測)→早期の小規模改修→問題の拡大防止(予防)」という発想です。

[予防的住宅改修]
そのためには、往々にして「我慢」をしていたり「まだまだ大丈夫」と楽観している高齢者本人や家族に対して、生活の変化を予測しながら時機を逃さず「予防的改修」を働きかける「専門家の判断」が必要となります。具体的には以下のような専門的判断です。

  • 高齢者本人の身体的能力や生活意欲についての
    専門的判断(医師、看護師、PT、OT)
  • 家族の生活実態・介護能力や介護意欲についての
    専門的判断(ヘルパー、ケアマネ)
  • 家庭の経済状態や住宅事情についての
    専門的判断(ケースワーカー)
  • 住宅構造および改修可能性についての
    専門的判断(建築士)
  • 訪問サービス・通所サービス等の地域資源利用に
    関する専門的判断(ケアマネ)

このような多面的判断を総合化し、高齢者本人を取り巻く経済的・社会的・物的条件に最もふさわしい「小さな予防的改修の道筋(出来るだけ小さな経済的負担で大きな生活効果をもたらす道筋)」を見出すことが専門家としての役割になります。

※ 現実には、このような「予防的改修」ではなく「困ってからの大規模改修」を求められるケースが多々あります。この場合においても、現実の差し迫った「必要」に応えるだけではなく、本人・家族の生活歴や生活意欲を読み取った上で今後の生活展開を予測し、それを支援する「小さな予防的改修」を積み重ねる発想が必要となります。
※ 近年、住宅新築時に「高齢化対応住宅」や「バリアフリー住宅」にするという発想も広がりつつありますが、これも「将来の住宅改修が不要の住宅」というよりも「小さな予防的改修を施しやすくした住宅」と理解すべきものです。

5.現場でのチェックとフォローアップ

以上のように住宅改修は、高齢者本人および家族の生活改善要求を基礎にしながらも、各種専門家との連携やチームワークを必要とします。
しかも、「住宅」「生活」ともに極めて個別性が強い(2つとして同じケースはないし、現場でしか分からないことが多い)ことから、必ずこのような連携とチームワークが「実際に住むことになる現場で本人を交えて発揮される」ことが大切です。

[予防的住宅改修]
また、「住宅が土地に固着した一品受注生産である(現場でしか施工できない)」という特質から、必ずしも予定どおりに(設計どおりに)仕上がらない…という場合も発生します。そういう意味での「現場でのチェック」と「臨機応変な対応」も必要となります。
そして最後に、「変化への対応」「小さな予防的改修の丁寧な積み重ね」という発想に従って「その後の継続的なフォローアップ」が何より重要となります。

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