聴覚

50年後のあなたの耳は・・・・

医学的な所見

福井県医師会 小泉敏夫先生(福井県耳鼻咽喉科会長)

高齢者と聴力、その社会的適応など

年をとると誰でも「きこえ」が悪くなるが、この所謂老人性難聴について、その内容や、本態はまだ不明な点も多い。
過去に耳疾患をもたない人を対象として、聴力検査を行った平均聴力図は、図-1である。

聴力の生理的年齢変化

老化は「発育が完成した時点から始まる」といわれ、身体の発育が完成するとされる20歳を越すと、聴力は徐々に悪化しはじめる。50歳までは、なだらかな悪化、50歳すぎると、急激な悪化の2相に2分できる。
誰でも、老化は避ける事はできない。然しその程度は、個体差により大きく左右される。その個体差は一般に遺伝により規定されている。
各周波数の年齢別平均聴力損失を図-2、図-3に示してある。

平均聴力損失(年齢との関係)

さて、老人性難聴と語音聴取能力、言葉のききとり能力であるが、一般に高齢者は音は聞こえるが、言葉がわからないと訴える人が多い。
聞こえる、聞こえないだけでなく、分かるか、分からないの問題が生じてくる。
これは、全般的な知的作業の機能不全がかかわってくるからである。
また、高齢者の難聴は、必ずしもすべてが老人性難聴、内耳感覚細胞の老化だけでなく、他にも漫出性中耳炎、聴神経腫瘍、騒音性難聴などの原因もある。更に高齢者の聴覚は機能の加齢現象の他に、身体的、心理的社会問題など、多岐に亘る(表1)。しかも加齢が進むほど、症状の個人差は大きくなる。
高齢者の聴覚機能の評価、日常のコミュニケーションにあたえる影響の検討、リハビリテーションプログラムの実施にあたっては、一人一人の老人の生活史、加齢の影響を受けている側面を十分把握することが、必要である。
高齢者において、音声言語での日常コミュニケーションで問題となるのは、聴覚機能の低下や、ききとり能力の低下、情緒的側面の編かなどである。従って高齢者の難聴の場合、とくに次のことに注意する必要がある。

  1. 相手の反応を待つ時間を長くとる
  2. 相手が話しの内容を理解したことを確認のうえで、次の話へと進む

すなわち、高齢者難聴の方と有効なコミュニケーションを形成するためには、コミュニケーション活動のペースを下げることがもっとも重要である。

補聴器の装用について

高齢者の難聴について、予防、治療の有効な方法は少ない。
従って補聴器の装用が極めて重要な手段である。この為耳鼻咽喉科医の指導の下、家族、介護にあたる人々と協力し、高齢者がより心豊かに生活できるよう支援することである。
一般に高齢者の平均聴力レベルが40dbを超えると、補聴器装用の適応である。50dbを越えれば必須である。しかし、純音聴力の外、語恩明瞭度の問題も生じてくるため、難聴が進行しない前に補聴器を装用する事、早期装用、早期訓練がより効果的であり、このことが知的作業能力、認知能力、情緒的感覚の活性化に繋がり、日常のコミュニケーションに好影響をもたらす。
耳鼻科医は補聴器の装用、指導などに最も理解と関心を示しているので、高齢者に補聴器を与えて終わることなく、装用後の管理など相談されると良い。

人間の耳は20Hzから20000Hzの音を聞き分ける事ができると言われています。音楽用CDの再生音域はこうして決められたのです。人間の耳は非常に高性能なマイクで、このマイクの役目を果たしているのが耳の奥にある、カタツムリ管という感覚器です。

さて、このカタツムリ管も年齢とともに劣化します。当然聞こえる音も50歳過ぎた位から小さくなってきます。しかし、ここで大事なのは難聴が進むと、やがて聞き分ける能力も落ちてくるということです。ここのところが健常者にはなかなかわからないところです。つまり、カタツムリ管というマイクは年齢とともに出力も低下するし、分解能も落ちるということです。従って「音は聞こえるけれども何を言っているのかわからない。聞き分け、小分けができない。」といった事になります。つまり音が小さくなるのみならず、元の音とは違って聞こえるのです。これは、単純な歪みというのも違って、言葉が置き換わって聞こえるので電子的に再現するのは非常に難しいのです。

難聴と言ってもいろいろな程度がありますが、80歳のAさんを例に取り上げましょう。
Aさんは高度の老人性難聴があり、聴力では健常者と比べて125Hzが40dB、250Hzが40dB、500Hzが40dB、1000Hzが50dB、 2000Hzが60dB、4000Hzが60dB、8000Hzが70dB低下しています。このように加齢による難聴は高い音が下がりやすいのです。従って聞こえる音は低音域中心の音になります。一般に音のうち周波数の高い成分が聞こえなくなると、大変聞き分けしにくくなります。(こもって聞こえる)だから、駅のホームでのアナウンスは聞き分けをよくするため、少し高音域をあげてあります。(そのため健常者には少しきんきんして響くのです)あるいは、ラジオ放送の音と、電話の音の違いを思い比べていただくといいかもしれません。高音域が聞こえない電話の音は聞き分けしにくいですね。

こうして、音の振幅のみならず、周波数成分が変化して聞える事により、老人の耳に聞える音の波形は元の音とは大きく変化してきます。こうして変化した音が脳の聴覚中枢に届けられて、音として認識されるのです。しかし、届いた音の信号は元の音とはかなり波形が変化していますから、当然脳は正確に認識できません。少し難しいですが、これを音声言語学的にみると、子音の置換がここでおきます。具体的にはK音、S音、T音がH音に聞え、さらに進むとG音、B音がR音になり、またM音とN音の区別がつかなくなるのです。ではどんな風に聞えるのでしょうか。Aさんのきこえを再現してみましょう。

お年寄りは、前後の話の脈略や相手の表情を見て、わからないところを補ってコミュニケーションしているのです。音の大きさは器械(補聴器)でいくらでも大きくできますが、こうした聞き分けは補聴器ではどうにもならないのです。ですから、たとえ補聴器をしているからといって、若い人がペラペラ早口で喋っても決して通じていません。相手の目をゆっくりと、文節ごとに区切って喋ることが大切です。

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